「痔」は「便潜血陽性」の原因になるのか
こんにちは!愛知県名古屋市の産業医、馬渕青陽です。
今日は、私がとても大事にしている「便潜血」検査について少し詳しく書いてみようと思います。
以前、特に注意が必要な健診項目として、「便潜血」について書いた記事があります。
「便潜血」検査について詳しく知りたい方はこちらからどうぞ。
https://chubu-sangyoui.com/?p=1513
今回のテーマは、「痔」と「便潜血検査」の関係です。
先日、「私は痔があるから便潜血陽性だけど関係ない」とおっしゃる方がいらっしゃいました。
実際のところ、私も「痔」と「便潜血検査」の関係についてあまり知らなかったのでこの機会に調べてみました。
痔がある人は便潜血陽性になるのか
日本人の3人に一人は痔に悩んでいます。
痔には出血を伴うことも多く、便潜血陽性の原因になりそうですよね。
実際、精密検査を受けたとしても、便潜血陽性の方の過半数は何も指摘されず、
痔やたまたま何か傷があって血が混じったのではないかと説明を受けることになります。
しかし、痔がある人で便潜血陽性の割合を調べてみると、
複数の研究で痔がある人と痔がない人の便潜血陽性率は大きな差がないとされています[1][2][3]。
例えば、日高らの研究[1]では、68256人を対象として便潜血検査を行ったところ、
痔がある人が便潜血陽性になる確率・・・4.7%
痔がない人が便潜血陽性になる確率・・・4.4%
と、若干痔があることで便潜血陽性率はあがりますが、ほとんど変わらない結果になっています。
痔がある人が便潜血陽性の時、癌がある確率はどのくらいか
そして、便潜血陽性の時、痔があってもなくても、癌がある確率は差がないようです。
例えば大江らの研究[4]では、便潜血陽性の人を5686人集めて、痔があるグループとないグループに分けています。
精密検査の結果、大腸癌が見つかった割合は
痔があるグループ・・・ 2.1%
痔がないグループ・・・ 2.5%
とほとんど差がありませんでした。
なので痔がある人も便潜血陽性になった場合は精密検査をきちんと受けないといけません。
痔がある人は精密検査を受けない傾向がある
痔がある人は、どうしても便潜血陽性の理由を痔のせいにしてしまい、精密検査を受けない傾向があります。
同じく大江らの研究[4]で、便潜血陽性になった際に精密検査を受けている人の割合は、
痔があるグループ・・・ 39.2%
痔がないグループ・・・ 46.5%
であり、統計学的にも痔があるグループの方が精密検査を受けている割合が低いという結果になりました。
今日のメッセージ
痔がある方は、どうしても痔があることを理由に便潜血陽性を放置してしまいがちです。
痔だからといって、便潜血陽性で癌が見つかる確率は変わりません。
便潜血陽性になったら必ず消化器内科に相談してください。
もちろん、毎回陽性になってしまって困るという方もいると思います。
そんな方は、消化器内科の先生に相談していただいて、何年かに一度大腸内視鏡検査を受けるのがよいと思います。
いずれにせよ、便潜血陽性は放置しないでくださいね。産業医がいれば相談してみるのも手です。
出典
1)日高久光ら 大腸集検における問診票の診断精度に関する検討 日消集検誌 94:18-23,1992
2)岩瀬直人ら 痔疾患 と免疫学的便潜血反応 日本大腸肛門病会誌 48:1065-1069,1995
3)van Turenhout, Sietze T et al. “Hemorrhoids detected at colonoscopy: an infrequent cause of false-positive fecal immunochemical test results.” Gastrointestinal endoscopy vol. 76,1 (2012): 136-43. doi:10.1016/j.gie.2012.03.169
4) 大江理沙ら 痔の自覚がある便潜血陽性者への大腸内視鏡検査の 積極的受診勧奨に向けて 人間ドック35:60-65,2020