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特定の菌が大腸がんの原因になる

[2025.08.05]

こんにちは!愛知県名古屋市の産業医、馬渕青陽です。

私はもともとウイルスによる発がんを研究していたのですが、最近は菌による発がんも一つのトピックスです。
今日は「大腸がんと腸内細菌の関係」、
そして「緑茶がそれを防ぐヒントになるかもしれない」
という、
最近の注目研究をご紹介します。

大腸がんと関わる“コリバクチン産生菌”とは

腸内細菌の中には、**コリバクチン(colibactin)**という物質を作る菌がいます。
これは大腸菌(E. coli)の一部で、DNAを傷つけ、がんの原因になる可能性があることが分かってきました。

最近では技術の向上によって、何が原因で遺伝子変異が起こったのか判断できるのですが、
日本人の大腸がんでは、約50%の方にコリバクチンによる遺伝子変異が見つかります[2]。

しかし、がん細胞の遺伝子を調べるとコリバクチンによる影響が見られるのに、
コリバクチンを作る大腸菌がすでに見つからない患者さんも数多くいらっしゃることがわかり
どの時点で、どこからコリバクチンを作る大腸菌に感染しているのかは謎に包まれていました。

実は、赤ちゃんのうちから感染している

驚くべきことに、コリバクチンを作る大腸菌は出生直後の赤ちゃんの腸内からも見つかることが最近わかりました。
これは自然分娩や母乳授乳など、“お母さんとの密接な接触”で菌が移ると考えられています[3]。

つまり、私たちの腸内には、がんのリスクになりうる菌が「とても早い時期から棲みついている」可能性があるのです。
幼少期に感染した菌によるダメージが、何十年後にがんとなって現れるのではないかと言われています。

日本人の場合、最近、50歳以下で発症する大腸がんが増えており、
なんと1975年からの40年間で2倍以上になっています[4]。
この若い方の大腸がんには高齢者と比べてコリバクチンの影響が3倍以上色濃く見られるというデータもあります[2]。

若い方の大腸がんは進行が早く、末期になってから見つかることも多いのでこれは由々しき問題です。

緑茶を飲む人にはコリバクチン産生菌が少ない

ここで注目したいのが、日本の研究[5]です。

223人の日本人中年男女を対象に、コリバクチン産生菌の有無と食生活を調査したところ──

緑茶を1日2~3杯以上飲む人には、コリバクチン産生菌の検出率が有意に低かったのです。

緑茶に含まれる「カテキン」や「マンガン」といった成分が、乳酸菌を増やし
コリバクチン産生菌の定着を防いでいる可能性があると考察されています。

そのほかにも、乳酸菌が作るフェニル乳酸がコリバクチン産生大腸菌の増殖を抑制するという実験結果もあるようで
腸活が大腸がんの予防に有効である一つの理由になり得ると言われています。

将来的には「がんの予防」として活用できるかもしれない

そしてコリバクチンのような「発がん性のある細菌」をターゲットにした研究は今、世界中で急速に進んでいます。

たとえば:

  • 腸内にコリバクチン産生菌がいるかどうかの検査

  • 特定の“突然変異の痕跡”から、菌との接触履歴を調べるゲノム検査

  • 安全な膜外小胞(ワクチンのような粒子)でコリバクチン産生菌を防ぐ試み[5]

    などがあり、「腸内の菌を調べてがんのリスクを可視化する」時代が来るかもしれません。

最後に

もちろん、緑茶だけでがんを完全に防げるわけではありません。
でも、「日常の食習慣が腸内環境に影響を与え、将来の健康にもつながる」──
そんな可能性を、研究は教えてくれています。

ランチや休憩時間に、ちょっとお茶を取り入れてみる。
腸のことを意識したそんな小さな行動が、未来の体を守ってくれるかもしれません。

参考文献

1.Pleguezuelos-Manzano, Cayetano et al. “Mutational signature in colorectal cancer caused by genotoxic pks+ E. coli.” Nature vol. 580,7802 (2020): 269-273. doi:10.1038/s41586-020-2080-8

2.Díaz-Gay, Marcos et al. “Geographic and age variations in mutational processes in colorectal cancer.” Nature vol. 643,8070 (2025): 230-240. doi:10.1038/s41586-025-09025-8

3.Tsunematsu, Yuta et al. “Mother-to-infant transmission of the carcinogenic colibactin-producing bacteria.” BMC microbiology vol. 21,1 235. 24 Aug. 2021, doi:10.1186/s12866-021-02292-1

4.Ueno A, Yokota M, Ueno M, Kawamoto K. Colorectal cancer in adolescent and young adults: epidemiology in Japan and narrative review. J Gastrointest Oncol. 14:1856-1868 (2023).

5.Uchiyama, Hiroki et al. “Mucosal adjuvanticity and mucosal booster effect of colibactin-depleted probiotic Escherichia coli membrane vesicles.” Human vaccines & immunotherapeutics vol. 20,1 (2024): 2337987. doi:10.1080/21645515.2024.2337987

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