メニュー

貧血は放置すると命に関わります

[2024.09.30]

こんにちは!愛知県名古屋市の産業医、馬渕青陽です。
最近、健康診断を見ていると、相当高度な貧血があるのに放置されている方が目立ちます。
そういった方と面談して、貧血が命に関わる病気だとお話しすると、とても驚かれることが多いです。

貧血がなぜ命にかかわるかというと、
①貧血には原因があることが多く、がんや白血病が潜んでいる場合もある
②貧血は心臓に負担をかけて心不全を起こす
③貧血症状により立ちくらみやめまいを起こして転倒、転落する場合がある
からです。

そこで、今回は健康診断の事後措置として意外に重要な「貧血」について書いてみようと思います。

貧血とは

貧血というと、全校生徒の集会の際に倒れてしまう人のことをイメージする人もいるかもしれませんが、
あれは「血管迷走神経反射」と呼ばれる状態で、医学的な「貧血」とは異なります。

貧血というのは血液中に含まれるヘモグロビンという物質の量が少なくなってしまった状態です。
ヘモグロビンは赤血球という細胞の中に含まれており、肺から全身に酸素を運ぶ役割をしています。
血をイメージしていただくと、赤いと思うのですが、血が赤いのはヘモグロビンが赤いからです。

 

               赤血球の図 ヘモグロビンをたくさん含んでいるため赤い

ヘモグロビンの正常値は男性が14~18g/dL、女性が12~16g/dLなのですが、
血液中のヘモグロビン値が男性で13.0g/dl以下、女性で11.0g/dl以下のことを貧血と言います。

貧血になると、全身に酸素が行き渡りにくくなってしまうために、様々な症状が現れます。

健康診断で貧血の方の割合は7−8%程度とされています。

貧血の症状

ヘモグロビンが10g/dL以上ある場合は、貧血による症状が起きることは多くありません。
ヘモグロビンが10g/dLを下回ってくると、

・息切れ

・だるい(倦怠感)

・疲れやすい

・立ちくらみ

・めまい

などの症状が出てきます。
急激に貧血が進んだ場合は徐々に貧血が進んだ場合より症状が起こりやすいとされています。

また貧血の原因によっては爪や髪の毛が脆くなるなど外見上も変化が現れることがあります。

あまりに悪化してヘモグロビンが7g/dLを下回ってしまった場合、
放置することで心臓に負荷がかかり心不全となってしまうことが知られています。

これは貧血により全身に効率的に酸素を行き渡らせることができなくなってしまったために、
心臓が血流を増やしてなんとか酸素を全身に運ぼうとして過剰に働きすぎてしまうためです。
これを高心拍出性心不全と呼びます。
この場合、命に関わることがあるので輸血が考慮されます。

貧血の原因と治療

貧血の原因は大きく分けると、①出血に伴う鉄欠乏 ②ビタミン不足 ③慢性炎症 ④血液疾患に分けられます。
このうち圧倒的に①出血に伴う鉄欠乏が多いです。
治療は原因により異なります。

①出血に伴う鉄欠乏

出血は、例えば怪我のように傷から大量に血が出ていればすぐに気づくと思いますが、
胃や十二指腸、大腸からの消化管出血や、子宮筋腫や生理不順に伴う婦人科系の出血には
気づきにくかったり、気づいていても気にせず放置してしまったりすることが多いです。

この場合、知らず知らずのうちに出血多量となり、
体は貯蔵している鉄を消費してヘモグロビンを作ろうとしますが
出血が多いとヘモグロビンの合成が追いつかず、鉄不足とともに貧血となります。
これが「鉄欠乏性貧血」です。

鉄欠乏性貧血の場合、まずは原因を突き止める必要があります。
若年女性の場合は、月経の出血量が多すぎたり、不正性器出血があったりすることが多く、
ストレスが多い方の場合は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、
高齢者の場合には、胃癌や大腸癌からの出血が多いため、
まずはこれらを念頭に出血源を突き止めて、出血源に対する治療を行う必要があります。

そして貧血に対しては鉄剤を飲んで定期的な採血をしながら経過観察となることが多いのですが、
鉄剤を飲むと消化管が刺激されるために、便秘や下痢、吐き気、嘔吐などの症状が起こることがあります。
そのために内服を中断して貧血を放置してしまう方がとても多いです。
とはいえ、貧血を放置したまま働いていると、立ちくらみにより転倒転落したり、
集中力が低下してしまったりしてとても危険です。
先ほども述べましたが、最悪の場合心不全になることもあります。

内服が合わないという方に対しては、点滴による治療もあります。
点滴は、内服に比べると通院が煩わしいかもしれません。
しかしお仕事や生活と両立可能な範囲での通院だとしても、通院しないよりは絶対によいと思いますので、
必ず通院を継続いただくようにお願いします。

また鉄分を多く含むものを食べるというのも有効な治療法です。
ほうれん草やレバーが有名ですが、マグロ、鰹、納豆、小松菜、ひじきなども鉄分が多い食品です。
意外なところでは鉄器や鉄鍋など鉄製品を使って調理することで鉄分を摂取できるということも知られています。

②ビタミン不足

葉酸やビタミンB12が欠乏することで貧血になることが知られています。
通常の食生活で、葉酸やビタミンB12が欠乏することはあまりありませんが、
胃を切除するとビタミンB12の吸収が悪くなると言われており、
胃を切除した方では術後数年経ってビタミンB12欠乏による貧血が起こることが知られています。
この場合は不足しているビタミンを補充することで貧血を治療できます。

③慢性炎症

膠原病や感染症、がんなど炎症がおこると、貧血になることが知られています。
これは、炎症によりヘプシジンというホルモンが増加し、鉄の吸収や鉄の利用が阻害されるために起こるとされています。

血液中の鉄分が多いと細菌が増えやすくなることが知られており、
もともとは細菌に対する防御の仕組みとして、血液中の鉄分を減らしているものと考えられています。

この場合は、貧血自体の治療よりも、原因となっている病気の治療が優先されます。

④血液疾患

決して多くはありませんが、白血病やその前段階の骨髄異形成症候群、自己免疫性溶血性貧血など血液疾患によっても
貧血が起こることがあります。

この場合も、疾患別に治療が変わります。
ただ他の原因による貧血と比較して白血病など命に関わる原因が多いので、迅速な受診が望まれます。

おわりに

健康診断で高度の貧血があったとしても、あまりはっきりした症状がなく放置されている方をよく見かけます。
貧血は命に関わることもある病気ですので放置せず受診をしていただくようにお願いします。

 

 

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME