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同僚や部下から自殺したいと伝えられたら

[2024.09.11]

こんにちは。愛知県名古屋市の産業医、馬渕青陽です。
9月10日〜9月16日は自殺対策基本法において自殺予防週間として設定されております。
今回は、「自殺したい」と訴える労働者への対応についてです。

労働者の方から、「自殺したい」と言われることはそう多くないかもしれませんが、
私は最高で1日に2件経験したことがあり、意外にあるものです。

「自殺したい」と打ち明けられるのは同僚や部下からが多いと思いますが、
おそらく多くの方は「自殺したい」と言われたら気が動転してしまうと思います。
「自殺したい」と言われたときに、本人がどのぐらい本気なのかはなかなかわかりません。
最後のSOSかもしれないし、気を引くために言っているのかもしれません。
でもその判別は困難なので、正直対応には困ると思います。

また場合によっては「自殺したい」「死にたい」という直接的な表現ではなく
「消えてしまいたい」であったり、「楽になりたい」、「ここに来るのもこれが最後だろう」、
「もう、これ以上、耐えられない」などの間接的な表現をされる場合もありますし、
自殺に関する絵や文章を書いたり、オーバードーズやリストカットなどの自傷行為に及んでいることを
打ち明けられる場合もあるかと思います。

そこで、今回は部下の方や同僚の方から自殺の予兆を打ち明けられた方に向けて、
求められる対応について書いてみようと思います。

ポイントは、
①否定せずにまずは話を聞く
②相談を受けた方が一人で対応せずに産業医・産業保健師・衛生管理者・人事などに相談する
③家族などキーパーソンに繋げる
④必ず病院受診に繋げる
です。

①否定せずにまずは話を聞く

まずはプライバシーの守られた環境を準備して、
否定せずに、自殺の予兆がある方の話を聞きましょう。
気の利いたことをいう必要はありません。ただ聞くだけでよいのです。
おそらく多くの方は意識的もしくは無意識に「生きたい」という気持ちもあるから
相談しに来ているのだと私は考えています。

ここで「そんなのだめだよ」とか「もう少し頑張ろうよ」のように
「自殺したい」という願望を否定してしまうと、
かえって自殺してしまいたくなってしまったり、
否定されたということでより絶望感を与えてしまったりする可能性があるので注意が必要です。
まずはただ相槌を打つだけで良いので話を聞きましょう。

②相談を受けた方が一人で対応せずに産業医・産業保健師・衛生管理者・人事などに相談する

話を聞いたら、次に何をすればよいのでしょうか。
それは相談です。

なぜなら一人で対応すると、気が動転してしまって冷静な判断ができなかったり、
あなたが抱え込むことで心身の不調をきたしてしまったりするからです。
また、万が一相談者が実際に自殺してしまった場合にものすごい心理的負荷がかかってしまうことが予想されます。

ですので、一通り話を聞いたところで、一人で受け止めるのではなく、
産業医や産業保健師、上司などに相談することを勧め、
本人の了解が得られた場合は一緒に相談しに行きましょう。
もし産業保健スタッフ(保健師や産業医)がいれば、まずはそちらに相談しましょう。
もしいないようであれば、衛生管理者や上司などに相談しましょう。
もちろん、相談者の個人情報になりますので、情報の共有に関しては、可能な限り本人の同意を得た方が望ましいです。
しかし、場合によっては自殺が差し迫っており同意がすぐには取れない場合もあるかもしれません。
その場合でも、相談を受けたあなたが一人だけで対応するのは難しい課題ですし、気も動転してしまうので、
本人の同意が得られない場合でも、必ず情報は共有し、会社の複数人の人間で支援することが必要だと考えます。

個人情報保護に関しても、自殺が差し迫っている場合には、本人の同意がなくとも
事業者が本人の心身の情報を取り扱うことが例外として認められています。
[労働安全衛生法第 104 条第1項 及び 基発1228第16号(平成30年12月28日)]

とはいえ、まずは本人の同意が得られるように傾聴と提案を続けましょう。
また誰彼構わず伝えて良いという内容ではありませんので、配慮は必要だと感じます。

③家族などキーパーソンに繋げる

そして、会社として支援できる体制を整えた後に、できるだけご家族とも連携しましょう。
なぜなら一人にしてしまうと自殺してしまう可能性は高くなってしまいますし、
一旦自殺を防ぐことができたとしても、長期的な支援のことを考えたらご家族の支援はとても重要だからです。

ただ、家族関係が自殺を考える原因になっている場合もあり、
単純に家族に繋げればいいというものではないケースも存在しますが、
その場合でも本人にも家族への相談を提案して納得いただいた上で、
会社からご家族とその場で連絡を取って連携していくのが望ましいと考えます。

④必ず病院受診につなげる

そして、就業をいったん停止して必ず精神科の受診につなげましょう。
できる限り即日受診すべきです。
なぜなら自殺のリスクが差し迫っているかどうかの判断、
自殺予防のためのカウンセリングや治療などは精神科の先生でなければできない領域だからです。

そして、受診には必ず付き添いが必要です。
万が一入院となった時にはご家族の同意が要る場合もあるので、
付き添いはご家族が望ましいですが、
ご家族が遠方にいるなどで難しい場合は上司や人事、産業保健スタッフが付き添うようにしましょう。
そのうえで主治医に家族と一緒にいた方がよいかどうか判断していただくのがよいと思います。
もし即日受診が難しい場合には必ず家族と一緒にいてもらうようにして、
受診できるようになり次第家族の付き添いで受診して頂くようにしましょう。

家族の理解が乏しい場合などで、対応に窮した場合は、
精神保健福祉センターや保健所に対応を相談しても良いかもしれません。

終わりに

今回は部下の方や同僚の方から自殺の予兆を打ち明けられた方に向けて、
求められる対応について書いてみました。

自殺が迫っている方に対して実際に対応する場合には気が動転してしまいますので、あらかじめフローを準備するなど、
日頃からの準備も必要ですし、緊急時にすぐに相談できる産業医が選任できていると良いですね。

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