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職場における熱中症の対応 わかりやすさを目指して

[2023.05.20]
 名古屋市の産業医・労働衛生コンサルタント事務所「中部産業医・労働衛生コンサルタント名古屋」の馬渕です。
 本日は全ての業種に関わる「熱中症への対応法」について産業医の視点から書きました。
 工場など、暑い環境の中で働いており、熱中症のリスクが高いが、何をしたら良いかわからない
 という方にはとても参考になると思います。
 とにかく実用性とわかりやすさを重視した私なりのフローチャートもありますので参考にしてください。

熱中症とは

熱中症は幅の広い概念で、暑い環境に人体が適応しきれずに起こる不調の総称です。

これだけだと意味が分かりにくいと思うので、もう少し説明させていただきますね。

みなさんも、暑いところでは汗をかくと思うのですが、汗を舐めてみると塩辛いですよね。汗には水分のみならず塩分も含まれているのです。そのため、汗をかくと無意識のうちに水分と塩分が失われていくのです。

この水分と塩分が失われて体の代償能力を超えると、熱中症を発症するです。

さらに重症になると、水分と塩分により血液が巡らなくなるとともに、汗を出すことができなくなり、体温が上昇して肝臓や腎臓、脳などの臓器がダメージを負ってしまいます。こうなってしまうと、死に至る可能性があります。

実際に、「令和4年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」によると、令和4年(2022年)には805人の労働者が熱中症のために4日以上休業しており、うち28人は熱中症により死亡しています。熱中症は死に至る病気なのです

熱中症は業種でいうと建設業や製造業で多いです。また当然かもしれませんが気温が最も上がる7月や8月が最も多く、14時〜15時に多いです。屋外や、屋外との空気の出入りがある暑い屋内で起こりやすくなります。

ただ夜間に起こる熱中症や、5月や10月に起こるイレギュラー例もあるため、注意が必要です。

※熱中症の統計についてはこちらの資料がわかりやすいです。

厚生労働省 「令和4年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」

https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001100761.pdf

熱中症の症状

熱中症には軽症、中等症、重症の3つの分類があります。

ここでは職場での熱中症対策に特化してお伝えするので、重症度の分類については軽く触れる程度にとどめます。

軽症〜中等症でみられる症状:多量の発汗、手足のしびれ、こむら返り、立ちくらみ、脱力感、悪心、嘔吐、めまいなど

重症で見られる症状:発汗の停止、意識障害、けいれんなど

 

※熱中症の症状について詳しく知りたい方は下記の表を参照ください。

熱中症の症状と分類の表

(画像出典:厚生労働省 職場のあんぜんサイト https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo09_1.html)

 

ここで覚えておいて頂きたいのは、熱中症はとにかく症状が多彩であるということです。

ですので、暑いところで具合が悪い人がいたとして、熱中症かどうか判断するのは現場ではなかなか困難です

私の経験では、「暑いところにいた」というだけで「熱中症疑い」で受診されたものの、実際に検査してみると肺炎だった、腎盂腎炎だったなどといった例を複数みたことがあります。

そして、最初は熱中症だったと思われたのですが、熱中症に伴う脱水により血液がドロドロになり、血管が詰まって心筋梗塞や脳梗塞を合併した例も複数みたことがあります。これらは放置すると命に関わったり、後遺症が残ったりする病気です。

では、どうしたらよいでしょうか?

私なりの答えをお示しすると、「①現場の判断で熱中症と決め打つことは避ける」「②なるべく早く病院につれていく」「③絶対に1人にしない」「④胸痛や手足の麻痺など、新規の症状が見られたらすぐに救急要請する」です。

暑いところで具合が悪い、熱中症「疑い」の人を見つけた時の対応について、以下で説明していきたいと思います。

熱中症を疑う人を見つけた時の対応

暑いところで、具合が悪い人がいたら、熱中症の可能性があります。

ただ先ほども申し上げた通り、熱中症の症状は多彩であり、他の病気との区別は難しいです。

公的機関からも、熱中症であることを前提として、熱中症対応のフローチャートが紹介されています(下図)。

熱中症の対処方法(応急処置)

図1 環境省熱中症予防サイト(https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_checksheet.php)のフローチャート

これは熱中症に対して非常に適切な対応だと思います。

しかし、万が一熱中症ではなかった場合や、他の病気を合併した場合に、この情報だけでは必ずしも適切な対応ができるとは言い難く、会社にとっても適切なリスク管理とならない可能性があります。

ですので、会社にとっての適切なリスク管理となるように私なりのフローチャートを作成しました。

図2 職場での熱中症疑い者が発生した際の対応

 

この対応の詳細についてお話していきますね。もし興味があればご覧ください。

最初に意識がしっかりしているかどうか、歩けるかどうか、水が飲めるかどうかを確認する理由

これらは意識の評価を目的として記載しています。

意識の評価は医師でも意外に難しいものです。例示した環境省のフローチャートのように、昏睡状態で、受け答えのできないような重い意識障害であれば誰でもわかると思いますが、なんとなくぼんやりしている程度の軽い意識障害を評価するのは医師でも難しいことがあります。

そこで、水分を飲めるか、歩けるかどうかを軽い意識障害の評価項目として追加しています。

そもそも、元気に働いている大人が、意識障害を発症して、急に水分をとれなくなったり、歩けなくなったりしたら、熱中症以外であったとしても重大な病気を発症している可能性があり、救急要請が必要だと思いますので、この3つを確認する意味があると感じています。

歩く男性のイラスト夏バテのイラスト(男の子)

効果的な水分・塩分補給について

先ほども書きましたが、熱中症の患者さんでは、汗をかくことにより水分のみならず塩分も喪失しています。

ですので、水分を摂取するとともに、塩飴などで塩分を補給するなど、塩分に対する配慮も必要です。労働安全衛生規則第617条には、「多量の発汗を伴う作業場では、労働者に与えるために塩及び飲料水を備えなければならない」とあり、実際に水分しか提供していなかった事業場で熱中症が発生した際に、塩分への配慮不足により会社や代表取締役が労働安全衛生法違反で書類送検された例もあります。

また、熱中症を疑う方に摂取させる場合、カフェインのある飲料(お茶やコーヒー)はできるだけ避けることが望ましいです。カフェインには利尿作用があり、せっかく摂取した水分が体外に排出されてしまうからです。それでも飲まないよりは良いので、もちろん手元に水分がお茶しかなければまずはそれを摂っていただいた方がよいです。

一番水分と塩分摂取に効果的なのはOS-1などの経口補水液です。

参考:OS-1公式サイト https://www.os-1.jp/products/os1/

もし、手元にOS-1があれば飲んでみてもらうと良いと思うのですが、大抵の人は「まずい」と感じるはずです。ただ熱中症など脱水の際にOS-1を口にすると、とても美味しく感じるようです。熱中症の簡便な判定法の一つとして覚えておくとよいかもしれませんね。

スポーツドリンクの一部にも塩分と糖分と水分が含まれており、熱中症の患者さんに摂取させてもよいと思うのですが、経口補水液と比較すると塩分が少なく、糖分が多いので、熱中症の患者さんに摂取してもらうという点では経口補水液の方が効果的です。

水分補給をする人のイラスト(男性・ペットボトル)

効果的に体を冷やす方法

首筋や脇の下、足の付け根には太い動脈があり、このあたりを氷嚢や保冷剤を巻いたものなどで冷やすと効果的です。

扇風機やうちわで仰ぐなども気化熱により体温を下げる効果があります。

体を冷やす子供のイラスト

自分たちで熱中症かどうか判断せず、なるべく早く医療機関に送る

熱中症の症状は非常に多彩です。医師でも一見して熱中症だと思って対応していたら、別の病気であったということがザラにあります。たとえ軽い熱中症かなと思っても、受診させて医師の判断を受けることをお勧めします。普段元気に働いている人が、原因がよくわからず業務が継続できなくなるということは、健康上一大事かもしれないのです。

そもそも職場で発生した体調不良は労災になる可能性があり、会社の安全配慮義務に関わる可能性があります。適切なリスク管理として、基本的には全例医療機関に受診させることが望ましいと考えます。

対応中1人にせず、胸痛や手足の麻痺など新しい症状に注意する

熱中症の患者さんを放置していると、重症化したり、脳梗塞や心筋梗塞など別の病気を発症したりする可能性があります。

その際に迅速に対応できるようにする必要があります。見逃してしまった場合は、後遺症や死亡につながる可能性もあるので、目を離さないようにしましょう。

おわりに

私の経験を踏まえて、実用的なフローチャートを含めてお伝えしました。

明日からの熱中症対策に役立てていただけたら幸いです。

熱中症の予防については別の記事を書く予定です。乞うご期待!

参考文献

熱中症予防のための情報・資料サイト(厚生労働省)

→熱中症について総論的にまとまっていて便利です。

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/index.html

・STOP!熱中症 クールワークキャンペーン(中災防、厚生労働省)

→職場での熱中症予防に特化した、わかりやすいパンフレットです。

https://www.jisha.or.jp/campaign/neccyusho/pdf/neccyusho_leaflet_2023.pdf

・令和4年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況 (令和5年1月 13 日時点速報値)

→職場での熱中症発症の状況(人数、季節、業種)がよく分かります。

https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001065029.pdf

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