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産業医が教える、便潜血陽性を放置してはいけない理由

[2023.10.20]

こんにちは!名古屋市の産業医事務所、中部産業医労働衛生コンサルタント名古屋、代表の馬渕です。

今回は、放置してはいけない健康診断の異常として、「便潜血」を取り上げたいと思います。
私は健康診断を見るときに、特に「糖尿病」と「便潜血」陽性は放置してはいけないと思っています。

「便潜血」は大腸がんの検診として行われていますので、「便潜血」陽性だけど、どうせ痔だからと受診をしないと、時に大腸癌が潜んでおり大変なことになります。
私の身近な人にも、「便潜血」陽性を長期間放置し、大腸癌で大変なことになった人がいます。

今回の記事では、どうして「便潜血」が重要なのか、「便潜血」陽性になった場合どうしたらよいのか説明しようと思います。

便潜血検査とは

「便潜血」検査は、便の中の血液成分を検出する検査です。大腸がんの検診として行われます。「がん」は一般的に血管が豊富であるため、便が通る度に「がん」の表面が傷ついて出血します。それゆえ「便潜血」検査で大腸がんが発見できるのです。

便潜血検査の受け方

「便潜血」検査は、会社の「定期健康診断」と合わせてオプションで追加できたり、協会けんぽの「生活習慣病予防健診」で実施されたり、市町村の「大腸がん検診」で受けられたり、自主的に「人間ドック」で受けたりすることが可能です。

便潜血検査の効果

大腸がんによる死亡を大幅に減らすことができる

「便潜血」検査では、進行した大腸がんのうち9割程度を発見することができるとされています(『有効性評価に基づく 大腸がん検診ガイドライン更新版』)。早期のがんだとやや発見しづらく、5割程度しか見つけることができません。それゆえ、できれば毎年、便潜血検査や内視鏡検査を受けることが望ましいとされています。

それでも、「便潜血」検査を受けることで、大腸がんによる死亡率を大幅に下げることができます。減少幅は報告により差が大きいですが、例えば13年間追跡した『JPHC study』という研究では、研究開始前1年間に便潜血検査を受けたことがある方が、受けていない方に比べて大腸がんでの死亡率が約70%低下していたと報告されています。

大腸がん自体が非常に多く、2019年の時点で155,625人(男性87,872人、女性67,753人)が大腸がんと診断されています。年間5万人の方が大腸がんで亡くなり、大腸がんと診断された方のうち、2割から3割程度の方は5年以内に亡くなってしまいます。
しかし、癌ができてから早い段階で治療することができれば、9割以上の方が5年以上生存できると言われています。「便潜血」陽性を契機に見つかる方の半数以上が早期癌です。便秘や下痢、血便などの自覚症状が出てから発見される例は、進行がんが多いです。自覚症状が出るよりも前に、検診で発見できた方が有利です。

「便潜血」陽性になる方の割合は5-10%程度とされます。そのうち癌が見つかるのは「便潜血」陽性となった方のうち50人に1人程度です(おおよそ全受検者のうち1000人に1人程度)。

「便潜血」検査では前がん病変も発見できる

さらに、大腸癌の多くは、一般に「大腸ポリープ」と言われる「腺腫」からできることが知られています。「腺腫」が「大腸癌」になるまでは多くの場合5-10年かかると言われています。この「腺腫」も出血を起こすことがあり、一部の「腺腫」が「便潜血」検査で陽性になります。内視鏡による精密検査で、「便潜血」陽性の方のうち2割程度に「腺腫」が見つかります。
大腸がん検診をうけることで癌に至るよりもかなり前に治療につなげることができるのです。

「便潜血」陽性でも精密検査を受ける人は少ない

日本消化器がん検診学会の調査によれば、市町村などが主体となって行う検診で「便潜血」が陽性であると指摘された場合、7割程度の人が精密検査を受けるようですが、職場での検診で異常を指摘された場合には4-5割程度の人しか精密検査を受けないようです(日本消化器がん検診学会全国集計 2019年)。実に勿体無い話です。

便潜血陽性と言われたら

会社の対応

「便潜血」陽性の方に対しては、二次検査のために、消化器内科に受診を勧奨することが望ましいのですが、健康診断における、「便潜血」の情報の取り扱いには少し注意が必要です。

「便潜血」は「法律で定められた定期健康診断で実施すべき検査項目」(「法定項目」といいます)ではないので、厳密にいうと事業者が本人の同意なく情報を把握することはできません。しかし多くの企業で定期健康診断と同時に検査されており、多くの場合は法定項目と合わせて報告されてくるので、会社側が不意に把握してしまい扱いに困ってしまうことが予想されます。

これを防ぐために、就業規則上に健康情報の取扱いについて規定し、就業規則を労働者に周知していれば、労働者が就業規則に規定されている健康情報等を本人の意思に基づき提出したことをもって、本人同意が得られていると理解して差し支えないという判断が厚労省から示されています(『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き』)。

ですので、就業規則に「便潜血」を含む健康情報の取り扱いが記載されて、周知されていれば、実務上は便潜血陽性の方に対して、会社の担当者の方から受診勧奨しても問題ないと思われます。

受診を勧奨して頂いた結果、今年は受診されないという判断だったとしても、直近で内視鏡検査を受けたことがある方については、必ずしも二次検査の受診は必須ではないかもしれません。ただそれなりの人数の方が、数年に渡り放置してしまうのが現状です。この際、産業医や産業保健師に相談いただければ、ご本人とお話しして受診に繋げることが可能です。私の経験でも、私から受診勧奨したことで早期の大腸癌を治療できた方がいらっしゃいました。

ですので、対応に困った場合は一度産業医に相談してみるとよいかもしれません。

カウンセリングのイラスト(男性医師)

労働者の対応

「便潜血」陽性となった場合には、放置せずに消化器内科を受診されることをお勧めします。基本的には大腸内視鏡検査を勧められると思うのですが、内視鏡検査は苦手という方もいるかと思いますので、受診した先の医師の先生とよく相談いただくことをお勧めします。

大腸内視鏡検査のイラスト

おわりに

「便潜血」陽性になった場合には、精密検査をうけることで大腸がんのリスクを減らすことができます。

どうせ痔だからといって放置せずに、消化器内科を受診しましょう。

参考文献

・厚生労働省「令和3年度地域保健・健康増進事業報告の概況」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/c-hoken/21/dl/kekka2.pdf

・日本消化器がん検診学会「全国集計調査」 2019年

https://www.jsgcs.or.jp/publication/publication/index

・有効性評価に基づく 大腸がん検診ガイドライン更新版

https://canscreen.ncc.go.jp/koukaiforum/2023/G_CRC_2023.pdf

・JPHC study

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17289293/

・事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き

https://www.mhlw.go.jp/content/000497426.pdf

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