アルコール消毒が万能ではない理由
こんにちは!愛知県名古屋市の産業医、馬渕青陽です。
2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行してから1年が経過しました。
ポストコロナの時代になっても、建物に入る際のアルコール消毒は残っているところが多いですね。
とりあえず、アルコール消毒をしておけば感染症対策は安心と思っているそこのあなた、本当に理解して使っていますか?
確かに新型コロナウイルスには有効ですが、アルコールが効かない病気もたくさんあります。
アルコールの効果を正しく理解して使うことで、より効果的な感染症対策につながればと思いこの記事を書いています。
アルコールはなぜ感染症予防効果があるのか
実はアルコール濃度は高ければ消毒効果が高くなるわけではなく、60-80%程度の濃度が一番消毒効果が高いとされています。
これはアルコールの消毒効果と密接に関係しており、60-80%程度のアルコールは水にも油にもなじみやすいのです。
そうすると細菌やウイルスの「膜」に浸透します。
アルコールはすぐに蒸発すると思うのですが、その際に浸透した「膜」を道連れに破壊する作用があり、「膜」を持っている病原体には消毒力が強いのです。
感染症を起こす病原体には、「細菌」「ウイルス」「真菌(カビ)」などがあるのですが、「細菌」「真菌」は全て「膜(細胞膜)」を持っており、アルコール消毒が効果的です。
しかし「ウイルス」には「膜」を持っているものと「膜」を持っていないものがあります。
なので、アルコールは一部のウイルスにしか効かないのです。
アルコールが効く感染症
アルコールは一般的な細菌と真菌に消毒効果があり、一部のウイルスに消毒効果があるとお話ししました。
では、アルコールが効くものにはどのようなウイルスがあるのでしょうか。
例えば新型コロナウイルスは次のような形をしています。
図1:新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真と模式図
表面に「膜」が存在し、スパイクタンパク質という棘が生えているのがわかりますか?
アルコールは蒸発するときにこの「膜」を破壊することで消毒作用を発揮するのです。
アルコールが効くウイルスの例
・コロナウイルス(新型コロナウイルス)
・インフルエンザウイルス
・水痘・帯状疱疹ウイルス
・風疹ウイルス
・麻疹ウイルス など
なんとなく、コロナとインフルエンザはアルコールが有効と覚えておいてください。
アルコールが効かない感染症
一方、アルコールが効かないものにはどんなウイルスがあるのでしょうか。
例えば、夏風邪の原因となるアデノウイルスは以下のような形をしています。
図2:アデノウイルスの電子顕微鏡写真と模式図
表面がカクカクしているのがわかりますか?
これはカプシドといってタンパク質でできた殻です。
「膜」は存在しませんのでタンパク質を変性させるような薬品(例:次亜塩素酸ナトリウム)での消毒が必要です。
アルコールが効かないウイルスの例
・アデノウイルス(咽頭結膜熱、流行性角結膜炎)
・エンテロウイルス(手足口病、ヘルパンギーナ)
・ノロウイルス
・ロタウイルス
夏、小児に流行する疾患やノロウイルス、ロタウイルスのように胃腸炎の原因となるウイルスはアルコールが効きにくいということを覚えておいてください。
アルコールが効かない感染症への対策
ではアルコールが効かないウイルスに対してはどうやって感染予防したら良いのでしょうか。
ポイントは、人に対しては石鹸を用いた流水での手洗い、物や場所に対しては次亜塩素酸ナトリウム水(ハイター)を使用して消毒するということです。
次亜塩素酸は人に対して有害ですので、必ず換気やマスク、保護メガネ、手袋をして取り扱いましょう。他のものと混ぜると有害ガスが発生する恐れがありますので、水以外のものと混ぜないように注意が必要です。
概ね0.1%となるように水で希釈して、雑巾などに染み込ませて物や場所を拭き取りましょう。腐食性があるので、10分ほどたったら水拭きして除去するのが望ましいです。
おわりに
アルコールの効果と、万能ではない理由についてお話ししました。
アルコール消毒しかできない状況であればアルコール消毒をするしかありませんが、
手洗いできる状況であれば石鹸で手洗いをする方が望ましいです。
あなたにとって、明日からの感染症予防対策に役立つことを祈っています。