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職場での命を救う技術:AEDの必要性とその影響

[2023.11.20]

こんにちは!名古屋市の産業医、中部労働衛生コンサルタント名古屋の代表の馬渕です。

今回は「職場におけるAEDの必要性」についてお話ししたいと思います。

AEDは、簡単に言うと心臓発作を起こした人を救命する装置です。
私はAEDのおかげで助かった方を直接診療してから、職場にAEDを設置することを強くお勧めしています。
この記事を読んでいただくと、AEDがどれだけ重要か理解いただけるのではないかと思います。
AEDを使う人のイラスト

はじめに

「AED」は、日本語では「自動体外式除細動器」といいます。
わかりやすく言うと、死に至る不整脈を検出して、自動で電気ショックを加えて不整脈を止める装置です。
不整脈というのは、簡単にいうと心臓が動くための電気配線がうまく働いていない状態です。
それゆえ、不整脈が起きると心臓から血液が全く送り出されないという状態が発生し、死に至ることがあるのです(不整脈の種類にもよりますが)。

AEDと聞くと、「なんだか操作方法が難しくて扱いにくそう」「どんな時に使ったらよいかわからない」と言って、不安を感じる人が多いと思います。

しかし、とりあえずAEDの蓋を開けて電源ボタンを押せば、あとはAEDが自動音声ガイダンスで指示してくれますし、とりあえず意識を失って倒れている人に対してAEDを装着すれば、AEDが自動でショックが必要かどうか判断してくれます。AEDは何の知識もない人でも扱えるように設計されていますので、どんな人でも扱える優れモノなのです。

AEDのすすめ

そして、私自身がこれだけAEDを推すのには、身近な経験があります。
私がある救急病院に勤めていた時に、搬送されてきたのは製造業の30代の男性。

この方は同僚の目の前で急に意識を失って倒れました。
後からAEDの記録を調べると、「心室細動」という通常であればそのまま死に至るタイプの不整脈だったのですが、同僚の方がたまたまAEDの使用講習を受けていたので、心臓マッサージとAEDによる電気ショックを受けることができたのでした。私が初めて救急外来で会った時は意識がぼんやりした状態だったのですが、入院されてからはみるみるうちに回復され、2週間ほどで後遺症なく元気に退院されていきました。

今まで、意識を失って搬送されてきた患者さんをたくさん見てきましたが、意識が完全になくなって心臓が止まっていたにも関わらず、後遺症なく退院できるというのはかなり衝撃でした。

入院中の男性とお医者さんのイラスト

また、2005年に行われた愛・地球博でも3名の方が突然倒れられましたが、全員AEDにより社会復帰できるまで回復されたそうです。

そのほかにも、スポーツで胸に球が当たるなどの衝撃を受けることで不整脈が誘発されてしまうこともあります(心臓震盪症)。この場合にもAEDが救命に役立ちます。

(日本救急医学会Hp http://aed.jaam.jp/commotio_cordis.htmlより引用)

この記事を読んでいただいて、いざという時にAEDを使用できるよう準備していただけたらとても嬉しいです。
特に不整脈発作は高齢者だけでなく、バリバリ働いている若い方にも起こるという特徴があります。
命はお金に代えられませんので、あなたの大切な人を守るために、AEDを設置することをお勧めします。
AEDを設置することで、会社が従業員の命を大切にしているというメッセージを発信することにも繋がります。

AEDの効果

AEDの効果は統計データにも表れています。

令和4年度「総務省消防庁:令和4年版救急・救助の現況」によると、

令和3年には心臓が原因で心肺停止に至った人(81742人)のうち、一般市民に倒れるところを目撃された人が26500人いたそうです。

その中で、一般市民による心肺蘇生を受けた人が57.5%、一般市民による心肺蘇生に加えて、AEDによる除細動を受けた人は4.1%でした。

1ヶ月後に社会復帰できた人の割合は、

一般市民による心肺蘇生を受けられなかった人・・・3.2%
一般市民による心肺蘇生のみ受けた人・・・9.7%
一般市民による心配蘇生と、AEDによる除細動を受けた人・・・40.1%

思ったよりも大きな差がありませんか。

もちろん、AEDによる除細動の対象となるという時点で、助かりやすい不整脈であるのかもしれませんが、相当大きな差があると思います。

心臓マッサージをしている人のイラスト

実際にAEDを使う場面では

この記事を読んで、あなたの目の前で人が倒れたら、AEDを持ってこよう!と思われるかもしれません。それ自体は全く間違っていないのですが、AEDを持ってくるよりも先にやらなければならないことがあります。

何となくこんな流れで使うのが推奨されているの

だなと感じてもらえましたら幸いです。
正直文章だけでは臨場感を掴むのは難しいと思いますので、
一度でも良いので消防署などが主催している「普通救命講習」を受けることをお勧めします。

倒れている人を見つけたら

まずやるべきことは救護者自身の安全確保です。迫ってくる車や、倒れてくる建材、ぶつかりそうな機械などはありませんか?まずは周囲の安全確認をして、自分の身を守りましょう。

意識の確認

倒れている人に大声をかけて、耳元で「大丈夫ですか!」と声をかけましょう。
反応がないようであれば意識はありません。

人を呼ぶ

意識がない場合、できるだけ多くの人を呼ぶ必要があります。
大声で、「誰か来てください」と叫んで人を集めましょう。

集まった人に指示を出す

119番への通報をする人、AEDを持ってくる人、次にお話しする蘇生処置をする人を決めましょう。「誰か119番通報お願いします」だと誰かがやってくれるだろうという思考になり、蓋を開けてみたら誰も動いていなかったという場合がありますので、ちゃんと指名しましょう。

救急車を呼ぶ

そして、できるだけ早く救急車を呼んでください。

救急車を呼ぶ人のイラスト(男性)

蘇生処置をする

まずは胸の動きをみたり、口、鼻に耳を近づけたりして呼吸を確認しましょう。

呼吸がない、もしくは不確かな場合は胸骨圧迫(心臓マッサージ)をしましょう。新型コロナウイルスが流行する前には人工呼吸も推奨されていましたが、今は感染のリスクを負って行う必要はないことになっています。

胸骨圧迫は、だいたい左右の乳頭の中間あたりの胸骨という部分に、手のひらの手首に近い部分を当てて押すイメージです。
胸を約5cm押し込むので、体重をかけながら押さなければなりません。また1分間に 100-120回と相当早いペースで押さなければならないので、一人だけで続けるのは難しく、複数人が交代しながら協力する必要があります。

ただこれは文章だけではお伝えするのが難しく、実際に訓練を受けてみないとテンポや強さがわからないと思います。
1回でも訓練を受けたことがあれば、相当質の高い胸骨圧迫ができると思います。

心臓マッサージをしている人のイラスト

もし呼吸がある場合には横向きに寝かせます。吐いたものによって窒息するリスクを下げるためです。

AEDが到着したら

AEDが到着したら、まずは蓋をあけて電源ボタンを押しましょう(一部の機種では開けるだけで電源が入ります)。音声ガイダンスに従ってパッドを貼り、あとはAEDの指示するタイミングで胸骨圧迫と心電図の解析、必要があればAEDが電気ショックを指示するという流れになります。AEDの電気ショックのボタンを押す際には、倒れている人には触れないようにします。触れていると感電してしまうためです。

AEDを使う人のイラスト

救急隊が到着したら

救急隊が到着したら救急隊に引き継ぎましょう。

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AEDを使用した責任は相当なことがない限り問われない

AEDを使用することでセクハラだと捉えられてしまったり、うまくいかないと訴えられてしまったりするのではないかと考えて、救命を躊躇うという話を耳にします。
一般的な解釈では、基本的に救助する人が一般人の場合は、民法であれば「緊急事務管理」、刑法であれば「緊急避難」が成立するそうなので、有罪となることはよほどのことがない限りないようです。
ただ、そうは言っても、AEDを装着する際に、パッドを素肌に貼ることができれば、必ずしもブラジャーを外す必要はないこと、パッドを素肌に張った後であれば毛布やタオルなどで隠すことが問題ないことなどは把握しておいて損はありません。

日頃からの準備が重要

いかがでしょうか。AEDを使って、いざという時に、あなたの大切な人を守るためにも、今日から準備をしておきましょう。あなたの勇気と準備によって、身近な人が助かる可能性が数倍に上がります。

まずは、身近なAEDの設置場所を把握しておきましょう。そして、使用の流れを把握しましょう。
AEDには購入だけでなくレンタルもできます。ランニングコストを考えて選ぶと良いと思います。

一度救命講習を受けてみるのもいいでしょう。名古屋市や各消防署が主催している講習会が毎月開かれていますし、ある程度の人数がいれば、「出張講習」にもきてくれます。

せっかく高い値段を払って設置しているのに、いざという時に使えないというのはあまりにも勿体無いです。できるだけ多くの人に、AEDの有用性と、使用方法を知っていただき、一人でも多くの人が心臓突然死から生還されることを願っています。

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