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労働者が50人を超えると生じる5つの義務とは

[2023.05.09]
 名古屋市の産業医・労働衛生コンサルタント事務所「中部産業医・労働衛生コンサルタント名古屋」の馬渕です。
 本日は全ての業種に関わる「労働安全衛生法の遵守」について産業医の視点から書きました。
 労働者数が50人を超えそうだけども、法令を遵守するために何をしたら良いかわからない
 という方にはとても参考になると思います。

はじめに

 今回は「最低限の法令遵守」をテーマにご説明します。

 私は、本来は法令に書かれた内容に従うだけでなく、法令の定められた背景や意味づけを理解し、事業場の実際に合わせた労働衛生管理に活かしていく姿勢が望ましいと考えています。

 しかし、そうはいっても、まずは最低限、法令に書かれた内容を守るというのは、日本で経済活動を行う以上、どの企業にも必要な部分です。

 平時には、多少法令遵守していなくても明るみに出ることは少ないのかもしれません。しかし、一旦労働者の過労死や裁判などの問題が起きると、労働基準監督署に突っ込まれて厳しい処分をうけたり、安全配慮義務違反で賠償金額が大幅に増えてしまったりなどという事態が想定されますし、実際にそういった事案も耳にします。企業のブランドイメージにも影響があります。

 法令遵守という視点でいくと、労働者数が常時50人以上というのは、企業にとって労働安全衛生法上5つの義務が生じるため特に意識しておかなければならない数字です。

 今回は、とある企業様からの要望にお応えして、労働者数が常時50人以上になった際に、法令に基づきどのような対応が必要かわかりやすくお話しします。

目次

そもそも労働者数が常時50人を超えているかどうかの判断方法

 労働者の人数の算定は1事業場ごとに行います。

 事業場とは、「工場、鉱山、事務所、店舗等のごとく一定の場所において相関連する組織のもとに継続的に行なわれる作業の一体をいう」とされています。

 平たく言えば場所がどこにあるかで判断されており、同じ場所にあるものをまとめて1事業所として扱い、別々の場所にあるものは別々の事業所として扱います。

 また算定の対象となる労働者ですが、

 正社員、契約社員、パート、アルバイトなど雇用契約を結んでいる労働者が対象になります。

 特に労働安全衛生法では派遣社員を派遣先でも派遣元でも対象に含むことが特徴です。

 代表取締役や取締役などの役員、業務委託社員など、雇用契約以外の契約を結んでいる方は算定対象になりません。

 また「常時」の解釈ですが、その事業場で働いている人数が季節や曜日によらずおおむね50人以上いれば対象になると考えられています。若干グレーなところがあります。

義務① 産業医、衛生管理者の選任義務(業種によっては安全管理者の選任も必要)

 労働者が常時50人を超えた場合、産業医と衛生管理者の選任義務が生じます。

 業種によっては安全管理者の選任も必要です。

 産業医、衛生管理者、安全管理者ともに選任してから14日以内に労働基準監督署に届出が必要です。

・産業医

 労働者の健康管理の中心となる医師です。

 健康診断の結果の確認、衛生委員会出席、職場巡視、労働者や担当者との面談(健康相談、高ストレス者に対する対応、長時間労働者に対する対応、復職時や復職後のフォロー)などの実務を行います。

 産業医は医師であれば誰でもなれるというわけではなく、定められた研修の修了もしくは労働衛生コンサルタント(保健衛生)などの資格が求められます。

 産業医の仕事内容はこちらhttps://chubu-sangyoui.com/%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%93%E3%82%B9

 産業医は最低でも2ヶ月に1回以上の職場巡視が必要です。労働基準監督署などの査察に備えて何らかの形で巡視したことがわかる資料の保存が望ましいです。

 また産業医は後述する「衛生委員会」のメンバーにもなります。

 1つの事業所で、労働者の数が常時1000人(一定の有害業務にあっては500人以上)を超えると、「専属」の産業医の選任義務が発生します。「専属」というのは、その産業医がやっている産業医先を、その事業場だけにしてもらう必要があるということです。「常勤」「非常勤」とは少し異なる概念です。

・衛生管理者

 事業場の労働衛生管理の実務を担う、企業の担当者です。

 衛生管理者には週に1回以上の、職場巡視が義務付けられています。職場の労働衛生環境を日々改善することで労災や業務による健康被害の発生を防ぐ役割を担っています。健康診断の実施や、労働者への労働安全衛生教育、労災の防止などの実務に従事します。後述する「衛生委員会」でも中心的な役割を果たすことが多いです。

 常時働いている労働者の数に応じて選任すべき人数が変わります。

  • 50人以上~200人以下 1人以上
  • 200人超~500人以下 2人以上
  • 500人超~1,000人以下 3人以上
  • 1,000人超~2,000人以下 4人以上
  • 2,000人超~3,000人以下 5人以上
  • 3,000人超 6人以上 

 「労働者数が常時1000人以上の場合」や、「労働者数が常時500人以上で、一定の有害業務に常時30人以上が従事している場合」には少なくとも1人を「専任」にしなければなりません。「専任」の意味ですが、仕事として、衛生管理者業務のみに従事する担当者とするということです。

 業種や業務内容に応じて、第一種衛生管理者、第二種衛生管理者、衛生工学衛生管理者のいずれかの免許が必要です。医師、歯科医師、労働衛生コンサルタントがなることも可能です。

 衛生管理者に関しては厚生労働省のHpがわかりやすいです。

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/faq/5.html

・安全管理者

 事業場の作業や作業環境の安全を技術的に管理する、企業の担当者です。

 下記の業種で労働者数が常時50人以上を超えた場合に選任が必要です。

林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む。 ) 、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業

 安全管理者には衛生管理者とは異なり、免許はありませんが、実務経験などの条件が必要です。

 安全管理者の選任要件については、厚生労働省のHpを確認ください。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/faq1.html

義務② 毎月の衛生委員会の開催義務(業種によっては安全衛生委員会の開催義務)

 労働者数が常時50人を超えると、月に1回、「衛生委員会」を開催しなければなりません一部の業種では「安全委員会」の開催義務もあるので、その場合は衛生委員会と安全委員会を同時に行い、「安全衛生委員会」として開催されることが多いです。

 「衛生委員会」「安全委員会」の業種と労働者数ごとの開催義務について、厚生労働省のHpに掲載されていたものを若干改変して転載しました。

表1 労働者数と「安全委員会」「衛生委員会」の開催義務

(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/faq/1.html より転載、一部改変)

 

 「衛生委員会」の一般的な審議内容は以下の通りです。

  ・健康管理全般(年間計画、事業場の労働衛生の課題の共有と対策の検討)

  ・労働者の健康障害防止(季節の健康課題、長時間労働の状況、健康診断受診状況、作業環境測定結果の共有など)

  ・労働者の健康増進(ウォーキングキャンペーンの案内など)

  ・労災の防止、事例の共有と再発予防

 

 「衛生委員会」には最低5人のメンバーが必要です。

 5人の内訳は、以下のようになります。

  ・議長(1人)・・・事業場長またはそれに準ずる者(総括安全衛生管理者を選任する場合はその方でOK)

  ・衛生管理者(最低1人)

  ・産業医(最低1人)

  ・衛生に関し経験を有する労働者(最低2人)

 議長は会社が指名して差し支えありませんが、議長以外のメンバーの半数は、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合(過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)の推薦に基づき指名しなければなりません。

 また、「衛生委員会」の議事録は3年間保存する義務があります。

義務③ 「定期健康診断」、「特定業務従事者の健康診断」の結果を遅滞なく労働基準監督署に報告する義務

 「定期健康診断」は全ての正社員と、契約社員・パートなどのうち1年以上使用する予定で、週の労働時間が正社員の4分の3以上の労働者に対して1年に1回実施する健康診断です。

 一部の有害業務に従事する場合(深夜業、高温など)は特定業務従事者となり、「定期健康診断」ではなく6ヶ月以内ごとに1回の「特定業務従事者の健康診断」を受けることになります。

 健康診断を実施した後には3ヶ月以内に医師の意見を聴取しなければなりません。そして所定の様式に産業医の氏名を添えて遅滞なく労働基準監督署に提出する必要があります。

 ちなみに特定化学物質などの有害業務に伴う「特殊健康診断」の結果は労働者数に関わらず、遅滞なく労働基準監督署への提出が必要です。

義務④ 「ストレスチェック」の実施義務

 「ストレスチェック」は、簡単にいうと、心の健康診断のようなものです。ただ、一般的な体の健康診断は病気の早期発見に重きを置いていますが、「ストレスチェック」は心の病気のなりやすさを評価することに重きを置いているという点で違いがあります。

 労働者数が常時50人以上を超えた場合には年に1回実施する義務があります。

 「ストレスチェック」は基本的に全ての労働者に対して実施しなければなりません。ただ労働者に対して受検を強制することはできません。契約期間が1年未満の労働者や、労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は義務の対象外です。

 具体的な流れは、以下のサイトがわかりやすいです。

 こころの耳:https://kokoro.mhlw.go.jp/etc/kaiseianeihou/

 労働者に対して質問票を配布して回収し、高ストレス者を決めて医師との面談を推奨するという流れになります。もし面談を推奨した対象者から申出があった場合には医師との面談を実施することになります。さらに集団分析をすることで職場や部署全体としての課題を把握し、就業環境の改善を図ります。

 そして「ストレスチェック」の結果は1年以内ごとに1回、労働基準監督署への報告が必要です。

 ここで注意しなければならないのは、個人情報保護の観点から会社側は直接質問票の結果を見ることができないということです。医師・歯科医師などの「実施者」を定めて、情報は「実施者」が管理することとなっており、質問票の回収、保存、本人への通知なども「実施者」や人事権のない労働者である「実施事務従事者」が行います。自社で「実施者」を準備するのは大変ですので、一般的にはストレスチェックサービスを外注するという形態を取っているところが多いです。

 ストレスチェックサービスの報酬には大きな幅があります(私の知っている中では3倍程度)。そのため、導入される際にはしっかりと相見積もりをされることをお勧めします。弊社ではストレスチェックサービス自体は承っておりませんが、共同実施者として複数の企業様でストレスチェックサービスを利用したことがありますので、感想をお伝えすることなどは可能です。

義務⑤ 「休養所」または「休養室」の設置

 労働者数が常時50人を超える場合、もしくは女性労働者数が常時30人を超える場合は「休養所」もしくは「休養室」を男女別に設けなければなりません。「休養所」または「休養室」は、労働者が一時的に横になることのできるスペースと考えていただけたらよいと思います。「休憩室」とは意味合いが異なります。

 「休養室」は、1つの部屋として横になることのできる部屋を提供するもので、「休養所」は、部屋の中の一つの区画をパーテーションなどで区切って横になることができるようにベッドなどを置いたものと考えてください。

 実務上は、ソファベッドなどを用意しておいて、体調不良者が利用を希望された場合に、応接室や会議室などで一時的にするようにしてもらえたらよいと思います。もし部屋が準備できない場合には部屋の片隅をパーテーションなどで区切るなどの対応でも十分です。個人のプライバシーに配慮できるような設置場所が望ましいでしょう。

 あくまで一時的に休むことのできるスペースとしての利用なので、体調不良が続く場合には、無理せず病院に受診していただくようにお願いしましょう。

 偏頭痛の方や生理中の女性、つわりのある妊婦さんなどが利用されることが多い印象です。

おわりに

 今回は労働者数が常時50人を超えると生じる5つの義務についてお話しました。

 法令を遵守して、明日からの健康職場作りに役立ちましたら幸いです。

 労働安全衛生法では、法令違反について、50万円以下の罰金など、罰則が定められています。

 わからないことがありましたらお気軽に問合せください。[email protected]

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